アップルの30年ロードマップ

今から13年前の1997年、スティーブ・ジョブズがアップル復帰の際に「30年ロードマップ」などというものを描いていたそうです。
ジョブズさんの略歴はこちら(wikipedia:スティーブ・ジョブズ)をご覧ください。

2010年にはマイクロソフトを抜いて、時価総額アメリカ2位となったアップルですが、これまでのシナリオはそのロードマップに沿ったもの・・・だそうです。

  • なぜMACにはブルーレイが内蔵されないのか
  • なぜiPadHDMIを標準サポートしないのか
  • なぜこのタイミングでAppleTVの仕切り直しなのか

その辺りを色々想像すると楽しいです。

以下、引用 Life is beautiful: アップルの30年ロードマップより
なお、この記事が今からちょうど1年前の2009年12月3日に書かれたものです。

昨日、日経BP主催のAndroidに関するセミナーで講演+パネルディスカッションをしたのだが、パネルディスカッションを一緒にさせていただいた、日本通信の福田尚久氏との話(特に、楽屋に戻ってからの非公開の話)が興味深かった。

 福田氏は、スティーブ・ジョブズAppleに戻り、Microsoftからの資金調達、iPodのリリース、アップル直営店の展開、という今のAppleの成功の基盤となる「奇跡の復活」を遂げた時期にジョブズの側近として活躍した人。

 彼に言わせると、今のAppleのビジネス戦略は、倒産寸前だった97年当時に作った「30年ロードマップ」に書かれた通りのシナリオを描いているという。

 もちろん、具体的な内容は企業秘密でもあるので直接聞き出すことはできなかったが、ここ12年の間にアップルが出して来たもの(iPod, iTunes, iPhone, Apple TV, Safari, OS-X, iLife, Final Cut) と、彼の話を繋げれば、そのロードマップの姿は自ずと見えて来る。

 ひとくちで言えば、「映像・画像・音楽・書籍・ゲームなどのあらゆるコンテンツがデジタル化され、同時に通信コストが急激に下がる中、その手のコンテンツを制作・流通・消費するシーンで使われるデバイスやツールは、従来のアナログなものとは全く異なるソフトウェア技術を駆使したデジタルなものになる。アップルはそこに必要なIP・ソフトウェア・デバイス・サービス・ソリューションを提供するデジタル時代の覇者となる」である。

 そう考えると、iPodの成功にはiTunes+iTunes Storeが必須だったことが分かるし、2007年・2008年のMacWorldがiPhone一辺倒だったことも納得できる。それに加えて、 Final Cutが着実に画像編集ツールとしてのプロフェッショナルの間でのデファクトの地位を取りつつある部分だとか、WebKitがスマート・フォン向けブラウザーデファクトになるつつあるなど、とても戦略的に思える。

 さらに、この見地から考えると「これから10〜15年の間にアップルが何をしてくるか」が自然に見えて来るから面白い。

 まずひとつ確実に言えることは、Apple TVは「ひょっとしたら売れるかも知れない」などの軽い気持ちで作ったデバイスではなく、「アップルがリビングルームにネットを通して映像が提供される時代の覇者になるための最初の一歩」であること。日本でも米国でも光ファイバーを通した映像の配信はまだまだビジネスとして立ち上がっていないが、いつかはそんな時代が来ることだけは確実。Apple TVはそんな時代に向けた先行投資であり、いつかはApple TVをリビングルームiPhoneのような存在にしようと企んでいることは明白である。

 次に言えるのは、ある時点でAppleが書籍・雑誌のデジタル配信ビジネスに本気で出て来ることがほぼ確実なこと。ちまたでは、AppleタブレットPCを出すかどうかが毎年の様に話題になるが、このロードマップを考えれば、Appleタブレット型のパソコンを「タブレットPC」として出すとは考えられない。そうではなくて、「デジタルで配信された書籍・雑誌を読むのに最適なデバイスは何か?」と考え、それに最適なデバイスをハードもソフトもサービスも含めて設計し、コンテンツ流通の仕組みと一緒に提供するのがAppleである。

 次に忘れてならないのはゲーム市場。最近のiPhone/iPod touchのアプリの宣伝の仕方でも分かる通り、Appleはすでに「ゲームを遊ぶ」をその二つのデバイスの主要なユーザー・シナリオの一つと位置づけている。わずか2年あまりの間に、iPhone/iPod touchは既にSony PSPNintendo DSに十分対抗しうる携帯ゲーム・プラットフォームに成長したのだ。

 そしてApple社内でもそろそろ真剣に検討しはじめていると容易に想像できるのが、PS3WiiXbox360に対抗する据え置き型のゲーム市場。何年後になるかはわからないが、次の世代のApple TVがOS-Xを搭載し、iTunes storeからゲームをダウンロードして遊べるようになる、という可能性は十分にある。もちろん簡単な話ではないので、単にゲーム機能をApple TVに追加しただけでは話にはならないが、「映像を見る」というテレビ本来の役割に革命をもたらす形でApple TVを普及させることに成功すれば、そこに「ゲームを遊ぶ」というシナリオを追加することはそれほど難しくない。

 なんとも皮肉なのは、このロードマップが、出井さんの時代にソニーが掲げていたビジョンと酷似している点。Appleが苦しんでいる時期に、冗談まじりに「ソニーは今のうちに Appleを買収すべき」と言って来た私だが、まさかここまでAppleがコンシューマ・エレクトロニクスの市場に進出するとは正直言って想像もしていなかった。97年の時点でそこまでのロードマップが書けており、かつそれをこれだけ長い間ブレずに着実に実行して来ているという点が、まさに今のApple の戦略の強さの源流だと思う今日この頃である。